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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)150号 判決 1960年7月19日

三和銀行

事実

控訴人A・B(Bは未成年者)は、いずれも被控訴銀行に対する金一〇万円宛の定期預金の払戻を請求するものであるが、銀行の抗弁は、次に述べるような事情で、右預金はA・Bの両親C・Dと銀行との間で、すでに決済されていると主張する。

右抗弁の内容は判決要旨欄の最初に、証拠に依り認定されたところによつて、知られたい。

A・Bの請求は、第一、二審共失当と認め、棄却されている。

理由

控訴審が証拠により認定した事実関係は、次のとおりである。

A・Bの父Cは、昭和三一年五月頃金三〇万円を自己の名義で半年の定期預金とするため実印と共に、妻D(昭和三二年一〇月死亡)を被控訴銀行某支店に持参させたところ、行員より一〇万円宛三口にすることをすすめられた。そこでC・A・Bの各名義で金一〇万円宛を、いずれもCの実印を使用して定期預金としたものを、期限到来により預け替えたのが、本件係争の各預金である。Cは証書と実印を納めた函の鍵をDに保管させていた。Dは昭和三〇年一二月以来E株式会社の代表取締役Fの依頼により同会社の取締役の地位にあつたが、Fは昭和三二年一月頃Dに会社の事業資金二〇万円の融通を依頼したところ、DはFの使者Gに本件の各預金証書と実印を渡し、Gは銀行に持参して金融を依頼したが、本人でないからと断られ、今度はDも同行して、銀行から同年一月一六日Aの名で金二〇万円を弁済期同年二月一六日の約で借受け、A名義の約束手形額面一〇万円二枚を差入れ、本件二口の定期預金債権に質権を設定した。次に同年三月一四日にはCの実印と本件各定期預金証書その他の関係書類を男の使者(氏名不詳)が持参したので、銀行は従来の経過から、之を信用して、同日一旦貸金の支払があつたこととし、あらためて金二〇万円を弁済期同年四月一五日債務者A名義で貸与し、A振出名義の金額二〇万円の約束手形を受領し、且本件各定期預金債権に質権の設定を受けた。同年六月頃右貸付の最初の担当行員甲が後任者乙の依頼によりA・Bの宅に催促に行つたところ、Dはその頃Fから当分返済の見込が無いと告げられ、仕方が無いから、銀行に対し自分の方で猶予を求めておくと約していたので、甲に対しこの金はE会社に融通してあり、本件定期預金債権の内支払期日到来の分に付ては、貸付金の一部弁済に充当されたいと申出た。そこで同支店は、同年七月一八日前記使者との間に、B名義の本件定期預金の払戻手続をした上、之を貸付金の内一〇万円及之に対する遅延損害金の弁済として受領すると共に、貸付残金一〇万円に付ては、あらためてA名義で弁済期同年一一月二八日として貸与し、A振出名義の一〇万円の約束手形の振出を受けると共に、A名義の本件定期預金一〇万円の債権に質権の設定を受け、次いで、右弁済期に貸金の弁済がなかつたため、預金担保差入証記載の約定に基いて、貸付金債権とAの定期預金債権とを対当額に付相殺の手続をとつたものである。

控訴審は、以上の認定事実に対し、この処理手続がA・Bに及ぶ効果に付次のごとく判断した。

「本件各預金通帳を控訴人A・Bの父Cが事実上保管していたことは控訴人両名も認めるところであり、又冒頭に認定したごとく、右預金は元来Cが自己の名義で貯金しようとしたところ、銀行より三口に名義を分けておくことをすすめられて、控訴人等の名義としたものであり、使用印鑑もすべてCの実印であつたことを綜合すると、Cは本件各預金通帳を単に事実上保管していたばかりでなく、同預金債権に付法律上の管理処分の権限を有したものと認定するのが相当である。Cの尋問の結果に依ると、Cは妻DがE会社の取締役をしていたこと、及びDがFの依頼に応じ、右各預金を担保として前記認定のとおり、控訴人A名義で被控訴銀行から二〇万円を借受けていたことは、昭和三二年七月迄全く知らなかつたと供述するがDが取締役となつたのは昭和三〇年一二月のことであるのに、終始同居していた通常の夫婦の間で、之を昭和三二年七月迄知らなかつたというごときは肯けない。又Cが昭和三二年七月頃に始めて右の事実を知つたものとすれば、その以前の同年五月二八日にB名義の定期預金の支払期限が到来しているのであるから、その頃直ちに被控訴銀行に対し何等かの交渉若くに問合せをするのが当然であるのに、同年一二月一二日の本訴提起までの間に、かような措置をとつた事跡も認められない。……(その他諸般の状況から考えると)………Dが右のごとき取引をなすに付ては、Cはその当時予め承諾を与えたか否かは兎も角、少くとも事後においては、この事実を知つて、別段異議を述べず、之を承認したものと認定するのが相当である。するとCは前記のごとく本件各預金に付法律上も控訴人両名のため管理処分の権限を持つていたのであるから、Dと被控訴銀行との間になされた各契約に基き、銀行が本件各定期預金債権に付てなした処理は、すべて控訴人等に対し効力を生じたものと解すべきである。又控訴人Bは現在も未成年者であるが、以上の認定の下においては、本件預金の処分は、親権者たる父C母Dにより共同してなされたもので、この点にもかしは無いと謂うことができる。従つて本件各定期預金債権は、すでに消滅したものと認むべきである。」

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